歯科サイトどくらぼ編集長:内田雄介氏と相模原橋本のエンドウナチュラルデンタルオフィス院長:遠藤広規氏が「自由診療と保険診療」について対談を行った。
前回は、歯科の治療に“自由診療”と“保険診療”の2つがあるというもので、世の中の大半のものはこの事実を知らないということからスタートした。今回は自費診療とはそもそもなぜ高いのかという“費用”の問題について迫る。
自費診療=お金儲けという考えは根本が間違えている。
「自費診療=高い」ということは誰しもが持つイメージである。そこから派生し、「自費診療=歯科医師のお金儲け」というイメージも少なからず私達は抱いている。しかし、この考え方は根本が間違えていると遠藤氏は言う。
内田:私もまだ何も知らない時は、「自費診療=お金持ちのやるもの」というイメージを持っていました。しかし、世の中には以前の私のように自費診療を行っている歯科医院は「お金持ちをターゲットにしている、お金儲けが好きな歯科医院だ」というイメージを持っている方も多いと思うのですが、どのようにお考えでしょうか
遠藤:「自費診療=お金儲け」という考え方は多くはびこっていると思います。実際のところ、患者さんだけではなく、歯科医の中でもそのようなイメージを持っている方もいます。元々の設備に守られている歯科医などはその傾向が顕著です。しかし、この考えは根本が間違えていると私は思っています。
内田:といいますと。
遠藤:そもそも、歯科の保険診療だけでは100点満点の治療はできないのです。しかし、日本人は国民皆保険制度という素晴らしい制度で守られているので、「病気は保険で治せる」という発想があります。「風邪をひいたら病院に行けば、薬をもらって風邪を治すことができる」「骨を折っても病院で治療をうければ骨は元通りになる」医科は保険で100点満点に近い治療を行うことができるので、歯科でも保険で100点満点の治療ができるとなりがちです。しかし、歯科の場合、保険で行えるのは合格の最低ライン60点。歯科では、100点満点の治療は保険診療だけではできないと考えています。
歯科は保険で100点満点の治療を行うことはできない
保険の範囲内だけで歯科治療を行ってきたものには、この事実は衝撃的である。しかし、遠藤氏の話を聞くと、保険には限界があるということが理解できる。
内田:歯科治療の場合、なぜ60点までしか行えないのでしょうか?
遠藤:歯科の場合は、技術料や処置にかかる材料費などが加味されていないためです。保険治療では、ルールのもと、限られた材料や素材しか扱うことはできません。ですので、例え患者さんにとって、もっと良い治療法があったとしても、保険では、それを行うことはできないのです。「自費診療が高価だから、金持ちの治療、自費治療を行っている歯医者はお金儲けをしている」と思われるかもしれませんが、高額の内訳はほとんどが材料費です。
内田:材料というとセラミック、金属みたいなことですよね。
遠藤:もちろんそうしたものもありますが、詰め物等を接着する接着剤1つにおいても保険にはルールがあり、ルールから外れたものは自費となり、費用がかかります。セラミックと適合しやすい接着剤など、保険の接着剤よりも良いものを使えば歯は長持ちするのですが、そうしたものを使うと保険は効かなくなるのです。
内田:接着剤1つをとっても、保険にはルールがあるのですね。こうしたルールはその他にもあるのですか。
遠藤:保険診療は病名がある治療については認められていますが、病名がなければ保険診療はできません。見た目を良くしたい等の審美的要求に対する治療は保険診療ではできません。例えば、銀歯が気になるから白くしたい、歯の削る量を少しでも減らしたいという希望には、応えることできないことも保険診療の中ではしばしばあります。
また、ルールとは違うかもしれませんが、保険診療を行う場合、大体30分で治療することが多いと思いますが、保険診療の中にはいわゆる手間賃というものの考え方はありません。極端にいうと保険診療は点数で決めたられているので、同じ処置を行ったとしても、5分で終わっても、1時間かけても金額は同じになります。特に歯の根の治療は一つ一つ丁寧に行程を踏むことで、精密な治療を可能にしますが、毎回、保険診療の範囲内で1時間以上もかけた場合、医院としては経営が成り立たなくなるぐらいです。その点、自費治療になると、根の治療だけでなく、他の詰める処置や被せ物の処置、入れ歯の治療にしても時間を長めに取れるため、より丁寧に精密に治療することが可能になります。
もちろん、保険診療でも手を抜くことはありませんが、限界があると感じています。
こうしたルールが保険では決まっているので、患者さんにとって、本当に良い治療を行おうとすれば、自費となり、費用がかかってしまうのです。歯を長持ちさせるため、患者さんにとって最適な治療を行うためには、保険では賄えないのが現状なのです。
内田:患者さんにとってより良い治療を行うには、現状の制度だと限界があるのですね。より良い治療を行うためには、自費にならざるを得ないという考えがそもそもの出発点としてあるべきだということですか。
遠藤:おっしゃる通りです。さらに言うと、自費診療は材料費以外にもお金が必要となってしまうのです。
自費を選んでいる歯科医師は、技術習得などの勉強をかかさない
自費はお金儲けの治療ではなく、患者さんにとって、ベストな治療を行う選択肢として存在していると遠藤氏は言います。保険の縛りのない、よりよい物を使うとなると材料に費用もかかってしまうのです。そして、この材料費以外にも自費は費用がかかります。
内田:材料費以外にはどのような費用がかかるのでしょうか。
遠藤:これは、患者さんが直接負担する費用というよりは、歯科医がかけなくてはならない費用です。自費診療は保険治療とは違って、ルールがなく、学びに終わりがありません。そのため、自費診療を行っている先生方は知識・技術習得の為に多額の投資を行います。国内はもとより、海外に技術習得のための勉強に出向いている先生も多くいます。そうした費用は全部実費なのでお金もかかります。さらには、知識だけではなく、設備投資も必要ですので、そうした費用もかかるのです。
内田:材料にお金がかかり、自己投資にお金がかかる、さらには設備投資にもお金がかかる。限られた保険治療よりも完成度の高い治療を目指すとなれば、費用がどうしてもかかってしまうわけですね。
遠藤:保険での歯科治療には限界があるので、より歯の寿命を長くするためには自費という選択肢は必ず必要です。「保険で何でもできる」という発想は歯科には当てはまらないのです。中には材料費など考えなくていいから保険で良いという特殊な環境で歯科治療を行うことができる歯科医もいるかもしれません。しかし、一般的に開業医は保険で何でもできるということはないのです。
もちろん、全て自費が良いということを言うつもりもありません。保険には保険の利点があります。ですので保険、自費、双方を十分に加味して、多くの治療の選択肢の中から患者さんにとって最適なものを選ぶことが歯科治療の根本にあるべきだと考えています。
患者さんにとって、本当に良いものを提供しなくてはいけない。その選択肢の1つとして自費があると遠藤氏は言います。ここから、議論はさらに深まり、自費診療と保険診療の本質に迫ります。